”自衛隊は「他に行くところがない」という人間のほうが耐えうる場所なのだ。背水の陣だからこそ、がむしゃらになれる。いつでも両親が迎え入れてくれるような隊員は、辛さが限界に達したとき逃げてしまう。それは本人が持つ資質ではなく、環境の問題だった。”
”認識というものは、予期せぬ方向からやってくることが多い。”
”一度軽口を叩いておいてから最も大切なことを告げるのが津久根のやり方であることを、村武は知っていた。そして、それが非常に効果的であることも。”
”得られないものを否定することでプライドを保とうとする子供のようなものだ。”
”仕事と生活が密着している以上、安っぽいハッタリもきかない。口先だけの人間は自然と淘汰される。”
”「野上三曹。それは一度に沢山のことを当てはめようとするからだよ。頭が混乱してきそうなときは、ちょっと条件を絞ってみると考えやすいんだよ」”
”「野上三曹。今の段階ではどんなことでも考えられるよ。どんなことでもね」”
”わかったふうを装っていた手前、今さら尋ねるのはかなり抵抗があったが、聞くは一時の恥とばかりに質問してみた。”
”「お前、まだ仕事をなめてるな。いいか、風呂も食事も『義務』だ。自主訓練のツケをそんなところに回すな」”
”人は自分でも意識しないうちに、過去の記憶に引きずられている。”
”「駒は自分を動かす棋士に疑問を感じたときは、それを必ず是正しなければならない。でないと、後々『命令に従っただけです』などという言い訳を使うことになる。”
”しかし、それでも隊員たちは与えられた物だけで懸命に職務をこなしている。上への意見が通らないところは工夫で乗り切っている。”
”額が汗ばむのを感じた俺だった。(略)乱暴に扱えない対象が急に突撃してくると、こんな心地がするに違いない。”
”どうもそのくるくる変わる思考の方向がつかめない。突飛なことを口にしたかと思うと、すぐにこちらが思わず動きを止めるようなことを相手は口にする。”
”朝香二尉は手札を伏せたまま慎重にそう問う。まず、何か一言しゃべらせようという考えからだろうと俺にも分かった。予想通り、これには戸倉士長は口を開かざるを得なかった。”
”口をついて文句のひとつも出るうちは、まだ忍耐に余裕がある。(略)経験でそう知っていた。それだけに、あの日、自分がほとんど呼吸さえ止めるようにしながら父親を見ていたことは痛烈に憶えている。一旦動けば歯止めが利かなくなると分かっていた。”
”すべてが決まり事で済むなら、軍隊に下士官は必要ない。上からの命令と現場の実務能力を調整する人間など要らない。”
”高須一士は、黙ったまま朝香二尉を見ていた。無言の肯定だった。”
”彼は「組織」を知っていた。トラブルが発生しないと末端の現状を知り得ない組織を。いや、知っていても腰を上げない組織を。”
”昔、「治安維持法」だとか、「国家総動員法」だとか、どう考えても国民を苦しめるとしか思えないものがあれよあれよと定められた。しかし、民主国家となった現在でさえ、よく分からない間によく分からない法案が可決されたりする…。”
”まずいことに、この国が未完に思えてきた。
工夫を大幅にはしょった、実は未完成の船に乗り込んでしまっているような心地になってくる。今まで底の水漏れに気づかずにいたから安心しきっていただけで、本当はあちこちに不備があって…。
(略)
「未完なら、一度母港に戻ってみるのもいいかも知れないね」”
(以上、小説内より)
おもしろかったです。小説内の印象に残った部分を記していますが、特に朝香二尉の言動が興味深かったです。
本書は朝香・野上コンビの第二弾ということで、第一弾の「UNKNOWN(アンノン)」も読んでみたくなりました。
ありがとうございました。
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