ドッペルゲンガー宮《あかずの扉》研究会流氷館へ(霧舎巧著)

「そうね。大事なのはわかることじゃなくて、わかってあげることなのよね。これって、人間が生きていく上でとっても重要なことだと思うわ」(森咲枝)

「他人を蔑んだ言い方をする時、その本人は周りからそれ以上の蔑んだ目で見られていることを自覚するんだな。そうすれば、簡単に他人を批判できなくなる。貴賤貧富にかかわらず、相手を認めてあげるってことは人間にとって一番大切なことだよ」(鳴海雄一郎)

「後動さんから言われたんだ。シャボン玉の勇気を持て‥‥って。この子たちはね、すぐに割れてしまうの。地面についたら、壁にぶつかったら、何かに触れたらすぐにパチンと弾けてなくなってしまう。強い風に吹かれただけで壊れてしまう子もいる‥‥。人間だって同じだよ――後動さんは言ったの。ほんの小さな障害物にぶつかっただけで、簡単に壊れてしまうものなんだって。せっかく生まれたのに、そんなに壊れやすい物なのに、何も自分から割れてしまうことはないだろう‥‥って。自分から弾けてしまうシャボン玉なんていないんだ。シャボン玉は自分で行く先を決められないけど、風が新しい世界へ連れていってくれることを夢見て、壊れることを恐れずに飛び立つんだって。人間は自分の力で障害物を乗り越える力を持っているの。自分で壊れるくらいなら、その勇気を本来のために使ったらどうだって、言ってくれたの」(由井広美)

「いいかい、二本松くん。初めから結果を出しておいて、それに合致するように発想していくと、今みたいに自分が納得する歪んだ推理を引き起こしてしまうんだ。結果は最後に出すもの。それまでの枝道の推理が間違っていなければ、最終的な答えは自然と見えてくるはずだ」(後動悟)

「全てを解決するのは動機の発見なのかもしれない。そうでないのかもしれない。とにかく犯人の意図なんだよ、大切なのは」(後動悟)

「こう考えたらどうだろう。ぼくやユイは名探偵じゃない。奸計に長けた犯人に対抗するとか、まだ見ぬ人々を救出するなんて不遜なことは考えず、場の流れに任せて、ただ思ったままの行動を取り、感じたままを口にする。それは広く一般を代表した言動になるだろう。犯人の思う壺なのかもしれない。でも、そんな普通の反応を示してあげることで、名探偵のサンプルになってあげるんだ。ワトスン博士の間違った推理を知ることによって、シャーロック・ホームズは真相への正しい道を迷わずに進むことが出来るんだ」(二本松翔)

「考えるんだよ。疑問に思ったら、どうしたらそういう結果になるか考えるんだ。事実は曲げられない。だとすれば曲げて考えなくちゃならないのは、常識という名の思い込みのほうだ」(鳴海雄一郎)

≪「ドッペルゲンガー宮」本文より、印象に残った文章を記しました≫

1999年、第12回メフィスト賞受賞・霧舎巧氏デビュー作。
文庫本600ページ超の大作。≪あかずの扉≫研究会シリーズがここから始まる。
平日に少しずつ読み進めていたが、休日に一気に読んで読んで読了。
シリーズまた読もうと思います。

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